クリミアに見る憲法の限界

ウクライナのクリミア自治区住民投票を実施し、97%が「独立」を選択したためクリミアは独立を宣言、欧米各国が反対する中で、クリミアから併合を求められているロシアがそれを承認した。欧米はロシアに対する制裁を発動し、日本も渋々検討を始めたらしい。

この問題は複雑で軽々なことは言えないが、アメリカやEUが「国際ルール」を理由にロシアを批判することにあまり良い印象は受けない。アメリカやEUは、国際ルール遵守やウクライナの安定を求めているのではなく、自分達の国益を優先している様にしか見えない。

正義者面してロシアに制裁する姿に、大国のエゴを感じてしまうのだ。そして、「欧米が動くのに日本だけが何もしないわけにはいかない」、なんて後ろ向きな理由で制裁に参加する日本もいただけない。もっと言えば、日本はロシア制裁に参加するべきではない。

ロシアは、近隣諸国にあって貴重な非反日国家だ。プーチンにいたっては親日的ですらある。北方領土問題を解決し、日露平和条約締結を悲願としている。そのプーチンは今年訪日する予定だが、制裁に参加すればそれもどうなるか分からなくなる。

エネルギー問題も重要だ。日本はロシアから天然ガスを輸入している。制裁に参加するのなら、ロシアのガス供給停止リスクに備えねばならない。アメリカにシェールガス優先輸出を約束させるか、国内原発の再稼働に目処をつけてから制裁に踏み切るべきだ。

ロシアとの関係構築は国益に資する。欧米のエゴに巻き込まれ、我が国の国益を犠牲にしてまで歩調を合わせるべきではない。中国みたく静観していればよろしい。

さて、このクリミア問題を巡る欧米及びマスコミの反応について、どうにも納得いかない点がある。

欧米が制裁にまで踏み切った理由に、「クリミアの住民投票ウクライナ憲法に反しており無効」というものがあることだ。日本のマスコミも総じて同意見で、「ウクライナ憲法に違反」「ロシアの軍事介入は許せぬ」「日本も制裁に参加すべき」などと報じられている。

で、「ウクライナ憲法違反」がよく分からない。いや分かるけど、マスコミも有識者も、誰も異を唱えないことが分からない。

安倍内閣憲法改正集団的自衛権の問題について、マスコミやその同志らは繰り返し安倍総理憲法観を批判してきた。「憲法は国民が権力(政府)を縛るもの」だから、「安倍内閣憲法解釈を変更するなら立憲主義の否定である」、と。

そしてクリミア自治区は、独立賛成派が住民投票で97%を占めた。まさに住民の総意だが、憲法違反を理由に欧米諸国は無効を主張している。ウクライナ憲法では、「国境変更には国民全体の住民投票が必要」と定めているからだ。でも、おかしくないか。

憲法は国民が政府を縛る」はずなのに、クリミアの住民は明らかに憲法によって縛られている。憲法は国民が政府を縛るものと言ってきたマスコミが、どうして何の疑問も提起せず欧米に追随するのか。

確かに、クリミア自治区ウクライナの一地域に過ぎない。しかし、自治区の名の通り、単なる一地区ではなく独立性の高い地域で、地区と言いながらも国家的性質を併せ持つ。その地域の住民が独立を望んだとき、杓子定規に無効と即断してもよいものか。

この問題は、評価者のさじ加減一つで見方は180度変化する。ウクライナにも、クリミアにも、ロシアにも、欧米にも、それぞれの正義があり誰が間違っているとは言えない。そして、このことは所詮は人の創り出した「憲法」の限界を示してもいると思う。

クリミアの街は、独立を祝う人々でお祭り騒ぎらしい。彼らに、「憲法違反だから不許可」と言っても無意味だろう。戦争は互いの正義が衝突して発生する。欧米の制裁、日本の追随、マスコミの同調、これらは正義の衝突を煽る危険で愚かな行為に見える。

どんな憲法も、過去に誰かが作ったものだ。クリミア独立宣言は、まさに新たな憲法を生み出す社会の胎動ではないか(今回はロシア編入ですが)。クリミアは、ウクライナ憲法で自分達は縛られないと思っているだろうし、権力を縛る道具に使いたいとも考えていまい。

そんなクリミアに、「憲法違反だから独立はならぬ!」と説教しても、それは血の通わず実効性も無い、単なる机上の空論とか思えず、欧米や日本マスコミらの「憲法違反」を聞く度に違和感を覚える。

http://norisu415.blog.fc2.com/
***********************************************************************