平気で矛盾を口にする左派知識人たち

ギリシャ問題に対する識者らの論評を読んでいると、本質そっちのけで、自説に好都合のところだけを切り貼りしているものがよく見られる。

 一つは「右」からの意見である。例えば、ギリシャは公務員が多く、給与は民間より高い。年金の給付水準も高い。こうした点をとらえて、「ギリシャ財政破綻する」というステレオタイプの記事は多い。

 筆者のコラム読者であれば、過去200年間で、ギリシャは2年に1回くらいデフォルトとなっていることも指摘してきた。ギリシャの公務員や年金の問題も最近起こったものではなく、以前からの話であることがわかろう。それでも、独自の通貨ドラクマがあれば、その為替調整機能で、危機にはなるが、そこからの立ち直りもなんとかなるというのも事実だ。

 ギリシャ破綻の理由を公務員や年金だけに求めるのは、このような歴史や、独自通貨による金融政策で対処できたという事実を無視している。そうした主張の人はマクロ経済にも疎く、日本の異次元金融緩和でも「ハイパーインフレになる」と間違ったことを言っていた。

 さらにまずいことに、ギリシャをダシにして緊縮財政を日本にも求める。ここまでくると、無知どころか有害でもある。こうした人は、しばしば財務省財政再建キャンペーンに利用されるのがオチだ。

 もう一つは、逆に「左」からの意見である。これは、ギリシャのチプラス政権にエールを送るものだ。スペインやフランス、イタリアなどの欧州左翼勢力もチプラス政権を推しているので、日本の左派勢力がギリシャ問題を格差問題ととらえるのも不思議ではない。

本コラムでは、ギリシャ問題をイデオロギーとは関係のない「最適通貨圏理論」(ノーベル経済学賞受賞者のマンデル氏による理論)を使って分析してきた。そこではギリシャがユーロに入ることでドイツなどが有利となることを指摘してきたので、同じユーロ内でギリシャとドイツに格差が出てくるというのは事実としては正しい。

 欧州左派勢力は、雇用問題解決のために金融政策の活用を主張してきたので、ユーロを離脱して独自通貨を採用し、自由な金融政策を主張するのも一応、理にかなっている。

 しかし、日本の左派勢力は、金融政策を否定してきた。「アベノミクスハイパーインフレになる」など、まるで経済理論に無知な右派勢力と同じようなことを言ってきた。

 そのような日本の左派勢力が「ユーロには問題がある」というのだから笑いたくなる。ユーロに問題があるのなら、ユーロ離脱が正解になるはずだが、それは独自通貨による金融政策の効果を認めることと同じであり、アベノミクスの異次元緩和を批判してきたことと矛盾してしまうのだ。

 ギリシャ問題は、みんなが注目する話題なので、それに乗じて、ちゃっかり自分の主張を織り込むというのはよくあるが、その場合でも、首尾一貫していないとまずいのではないだろうか。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一
-----------------------------------------------------------