田中康夫 富国裕民政策

 今こそ固定観念を打破し、日本を富ませ・国民を豊かにする“富国裕民”の「新しい方程式」を打ち立てねばなりません。けれども、国民の期待を裏切ることだけは天才的な民主党は、あらゆる分野で無定見な政権運営を行っています。
 マグロで知られる本州最北端の大間町をはじめとする3カ所で政府が建設許可した原発計画の続行可否はあくまでも事業者の判断だと逃げる一方で、「脱原発」の民主党と「推原発」の自民党の違いが次期総選挙の争点だ、とのたまうのですから、開いた口がふさがりません。
 例えたなら、御前会議改め閣議決定した戦争は、戦禍拡大の危険性が高まろうとも判断は軍部に委ね、内閣は終戦を決断する権限を有さず、って具合です。脱原発の具体的工程表を示すドイツ、イタリアとは雲泥の差。
 ポスト原子力代替エネルギー開発には天文学的な歳月と費用を要する、と否定的発言を繰り返す面々がいます。突如として健忘症になった彼らは、放射能の発見から原子力の利用に至る道程も同様だった不都合な真実から目を背けています。
 「前例が無いから」「法律が無いから難しい」と“出来ない条項”を並べ立てる役人と似ています。なまじ知識と経験を持ち合わせているが故に、現在は失敗体験と化してしまった、過去の成功体験という「古い方程式」から踏み出せないのです。
 科学を信じて・技術を疑わなかった20世紀から、科学を用いて・技術を超える21世紀へ向けて「新しい方程式」を編み出してこそ考える葦(あし)。
 「3・11」後に初めて開かれた昨年4月の予算委員会で、石油をつくる藻「オーランチオキトリウム」の実用化に向け国家的支援を行うべきだ、と提言しました。化石燃料重油に相当する炭化水素を高効率で生成し、細胞内に蓄積する藻類を見付けた筑波大の渡邉信教授に対し、早くも欧米の石油メジャー資本は実用化に向けての資金提供と独占契約を持ち掛けています
 が、ぜひとも「日の丸印の新エネルギー」を確立したいと渡邉教授は申し出を断り、研究を続けているのです。日本近海で埋蔵が確認されたメタンハイドレートシェールガスと並び、資源立国ニッポンへの可能性を秘めています。なのに、政府の動きは鈍い限り
 最先端研究開発支援の予算額を「事業仕分け」で3分の1に削減していた民主党政権は、ノーベル医学生理学賞山中伸弥京都大教授が受賞するや臆面もなく、300億円を大盤振る舞いする無節操さ
 オーランチオキトリウムの可能性に気付くのは一体、いつでしょう。今秋、欧州連合(EU)はオーストリア東部に、原料となる藻を大量発生させる大規模施設で実証実験を開始しました。
 別の原発でも“動脈瘤(りゅう)”が破裂するかもしれぬ「ロシアンルー列島ニッポン」で、目先の利く高校生が原子力工学科を目指すはずもありません結果、優秀な技術者も研究者も払底する事態に陥ります
 原子力技術の火を絶やすな、と口角泡を飛ばす面々こそ、「フクイチ」周辺を核廃棄物の最終処分場とし、各地で廃炉事業を安全に実施する「新しい方程式」へと発想転換すべきなのです。
(会員制情報誌「KyodoWeekly」10月22日号より)