「個所付け内示」で明らかになる民主党の俺様デモクラシー

「個所付け内示」で明らかになる民主党の俺様デモクラシー
2010年02月05日13時46分 / 提供:フリーライター宮島理のプチ論壇 since1997

 野党から提出されている石川知裕議員の議員辞職勧告決議案について、民主党は採決に応じない方針だという。山岡賢次国会対策委員長は、「審議するには当たらない」と述べている。

 これはこれで結構なことである。「政治とカネ」問題は司法(および捜査機関としての検察)に任せておけばいいのであって、立法府がいちいち反応する必要はない。もちろん、出処進退は議員本人が決めるものだから、本人が辞めたければ辞めればいいけれども、最終的に議員の適性を判断するのは有権者の投票行動である。

 以前から言っているように、鳩山首相小沢幹事長の「政治とカネ」問題も、先の選挙で有権者が信任している。「生活」に深く関わる既得権護持やバラマキ政策の前では、「クリーン」とか「フレッシュ」といったことは何の意味もない戯れ言だ。明白な贈収賄事件でもない限り、立法府で「政治とカネ」をしつこく追及するのは無意味どころか政局目当ての愚かな行為と言える。

 一方、民主党の「個所付け内示」が問題になっている。2010年度予算案の個所付け(公共事業の予算配分)について、予算審議前に党地方組織に対して内示が行われたという疑惑である。「自民党政権時代は予算審議を尊重し予算の成立時にやっていた。国会軽視だ」という自民党の批判はもっともだ。

 馬淵澄夫国土交通副大臣は当初「画期的」と自画自賛していたが、その後、「個所づけは一切出していない」と報告したというから、実は悪いことをしたと理解しているのだろう。わかっていてやったとしたならば、やはり民主党の「党官僚政治」のあらわれということだ。個所付けは族議員政治の温床と言われてきたが、その権限がそのまま党官僚に移ったのでは、利権政治が悪化するだけである。その上、国会軽視になっているのだから、チェック機能がまるで働かない最悪の「独裁政治」と言うしかない。

 民主党の「反検察」「脱官僚」「反自民」は、司法・行政・立法を否定して、すべてを党に集中させる方便であることが政権交代以来明らかになってきているけれども、この「個所付け内示」でさらにはっきりした。

 野党時代には「政治とカネ」問題で検察の犬となり、国会を空転させてきたが、与党になると一転して開き直るどころか検察への介入すらほのめかす。「脱官僚」と言えば聞こえはいいが、実際には党官僚主導で依怙贔屓の利益誘導政治(古い自民党政治の再現・強化)を行う。野党時代には自民党の「強行採決(実際には民主党の審議拒否)」を批判しながら、与党になると、「強行採決」どころか与党のくせに審議拒否をする。さらに、「個所付け内示」で、予算審議すらまともにやる気がない姿勢が明らかとなった。

日本国憲法には三権分立は一言もない」と発言した菅直人氏や、「天皇の政治利用」で開き直った小沢一郎氏に代表されるように、民主党はゴリゴリの法治主義以前の俺様デモクラシーを実践している。俺様デモクラシーは、他人への信任を過小に、自分への信任を過大に評価して、すぐに一般意志を暴走させる。行動基準が「政敵には負けないぞ」というくだらないプライドだけだから、法や慣習を無視してでも政敵を(さらには政敵でない人まで政敵に認定して)叩くことしか考えない。

「法の支配」を理解できない人たちに権力を与えてはいけないというのが、本質的に危険だが比較的マシなシステムとしてデモクラシーが歩んできた歴史の教訓である。