三井の晩鐘(みいのばんしょう)の伝説 龍神

昔々滋賀の里に、1人暮らしの若い漁師が住んでおりました。とある春の夕べのこと。どこからともなくやってきた美しい娘が若者と一緒に住むようになります。炊事・洗濯・掃除と本当に甲斐甲斐しく働くので、二人は祝言を上げ夫婦となりました。周囲も羨むほど夫婦仲が良く、やがて二人の間には子供が産まれます。
 
ところがある日のこと。妻が「実は私は琵琶湖の龍神の化身で、神様にお願いして人間にしてもらいましたが、もう湖へ帰らねばなりません」と言って泣き出し、止める夫の言葉も振り捨てて湖に帰ってしまいました。


残された子どもは母親を恋しがり、毎日激しく泣き叫びます。夫は昼に近隣でもらい乳をし、夜は浜に出て妻を呼び、三日に一晩の約束で乳を飲ませていました。]
 
しかしそれも束の間、妻は龍の世界の掟が厳しくなり乳を与えることが出来なくなったと言い、これをしゃぶらせるようにと自身の右目を差し出して姿を見せなくなってしまいました。
 
母親に貰った目玉をしゃぶると子供は不思議と泣き止むのですが、舐め尽してしまうのにそう何日も掛かりません。
 
そこで夫は再び浜に出て妻を呼びます。


すると妻は左目も差し出します。盲目となってしまった妻は方角も解らなくなってしまい、悲しい上に家族の無事な姿さえ見ることが出来なくなってしまいました。
 
そこで妻は夫に三井寺(園城寺)の鐘を撞いて、 二人が達者でいることを知らせてくれるように頼みます。 夫は毎日鐘を撞き、湖に音色を響かせて妻を安堵させたといいます。


--------------------------