ある惑星の物語

むかしむかし、それもいまから6千年ほど昔という、とほうもないむかし。
神の国からその王国に、救世主の人々がやってきました。
神の国は、世界中の主だった王国に、救世主となりうる優秀な人材を派遣していたのです。

もしかすると、それは神の国の若者たちの自発的な行動だったのかもしれません。
自分たちが学んで得た知識をもって、貧困に苦しむ世界中の人々を、すこしでも豊かに安心して安全に暮らせるようにしてあげたい。
そのために、一生懸命に学び、訓練を受けた若者たちが、様々な人達の協力や応援を得て、世界中の人々のためにと、自発的に神の国から海外に出て行った若者たちであったのかもしれないのです。

若者たちは、その王国にやってくると、王様の協力を得て、人々に、田んぼや穀物の作り方や、土地の拓き方、穀物を保存するための高床式住居の作り方、言葉や文字、あるいは布の作り方、衣類の作り方や着方など、さまざまな文明文化を、その王国にもたらしました。

王国は繁栄しました。
武器を手にして人から奪うのではなく、みんなで協力して食べ物をつくり、互いに互いのために、より豊かに生活できるように努力しあうのです。
王国が繁栄を迎えたのは、当然のことでした。

最初に救世主とまで呼ばれた若者がやってきてから、王国がそのような国に変わるまでに500年かかりました。
そしてその後約1500年にわたって、王国は、静かで平和で豊かな国として発展しました。

大陸の中にある王国には、無限とも思えるほどの緑の大地と、偉大な大河がもたらす水の恵みが広がっています。
拓くべき土地は、無尽蔵にありました。

王国の人々は、周辺に文化を伝え、王国の勢力圏は広がり、王の居る都は、まさに世界の中心かと思えるほどの繁栄をみることができました。
そして平和と繁栄をもたらした歴代の王様は、お亡くなりになったあと、人々から神の尊称を与えられました。

ところが、いまから4000年ほど前のある日、はるか西方から、言語の違う屈強な旅人の男たちがやってきました。
大型の動物を追ってやってきた彼らは、大型の武器を手にしていました。
そして彼らは、移動式の竪穴式住居で暮らしていました。

ある日、彼らは、王国の民と出会いました。
王国の民は、稲作をし、高床式住居に住み、平和を愛し、武器を所持していません。
そしてそこには、たくさんの保存食と、美しく着飾った女達がいました。

武器を手にした旅人たちにとって、喉から手が出るほど欲しい食べ物と水と女が、そこにいました。
しかも王国の民たちは、武器を持っていません。
旅人たちは、村を襲いました。
そして瞬く間に、村人たちを皆殺しにし、そして食べ物と女を奪い、村に火を放ちました。

たまたま薪を得るために山に出ていた村人は、村からあがる煙を見て、慌てて村に戻りました。
そこには、変わり果てた親兄弟の姿がありました。
人は簡単には死にません。
だから、まだ息のある者もいました。
そして事情がわかりました。

生き残った村人たちはとなり村に逃げました。
豊かだったとなり村の人々は、もちろん、かくまってくれました。
けれど、そのとなり村も、襲撃されました。

被害は年々拡大していきました。
そして20年が経つと、今度は、はじめにやってきた旅人と、もともとその地に住んでいた人たちとの間にできた子供、それは強姦によって生まれた子でしたけれど、奪った食べ物を豊富に持つ一団は、いつのまにか軍団とさえも呼べるものができあがっていました。

彼らは、もっぱら、村を襲いました。
あまりのことに、村を捨てて中原と呼ばれた住みよい土地を捨てて、周辺部のジャングルや、深い森の中に避難し、そこに新たな村を形成した人々もいました。
その人達は、21世紀になったいまも、当時のままの言語と生活を続けています。

王国の側も、黙ってはいませんでした。
西からやってきた旅人の、いまではもう軍団と呼べる暴徒になった者達と、あらためて武器を持って戦うようになりました。

もともとが、身内を残酷に殺された怨恨から発した戦いです。
戦いは凄惨を極めたし、捕まえた敵に対する拷問もまた、両者ともに残酷なものへとなっていきました。

そんな戦いが繰り返される時代が、2千年ほど続きました。
もはや、当初あった平和と繁栄、武器を持たずに人々が互いに助けあって暮らす平和な王国は、片鱗もなくなりました。

みんなで協力して、広大な農地を開いても、作物が稔れば奪われるだけです。
だから人々は、猫の額ほどの小さな土地で、自分たちの食べ物をつくると、暴徒や城の兵隊たちが食べ物を奪いに来る前に、その作物を収穫して逃げなければ、生きていけないという状態になりました。

けれど、たとえ逃げても人が生きるには水が必要です。
暴徒たちは、その水のあるオアシスに城塞を築き、逃げてきた人々から通行税を取ることを覚えました。
そしてそうした城塞同士がまた、互いの利権のために大規模な戦いを起こすようになりました。

それぞれの城塞には、王がいました。
そして王たちは、自分たちが生き残るための知恵者を求めるようになりました。
そうした知恵者は、諸子百家と呼ばれるようになりました。

そんな中で、もっとも、もてはやされたのが、
ひたすらに王は偉い人であり、人々はその王に恭順しなければならないという教えを説く人と、
どんな手を使ってでも、勝てば良いという教えを説く人でした。

一方、絶対に負けない専守防衛を解いた知恵者(墨子)の集団は、多くの人びとから支持を得ましたが、結果としてその片鱗さえ残らないほど、一人残らず殺害されて、この世から消えました。

そんな中で、国の統治のために法を用いることが、強兵を得る道であり、強兵によって他国を征圧すれば豊かになれると解いた者もいました。
その知恵者の意見を入れた王は、瞬く間に全中原を制圧し、自分は王の中の王である、だから皇帝であると名乗りをあげました。

けれど、その皇帝も、代が変わったときに、攻め滅ぼされた側の怨恨から、国を滅ぼされてしまいました。
それから2千年。
その国は、いまもなお、人々の上に立つ者が、民衆から搾取し、奪い、横暴の限りをつくし、民は人としてさえも扱われないという国柄となりました。

ところが、国が安定し、大きくなると、それなりの平和が訪れ、民間交易が盛んになります。
すると困ったことが起きました。
海を隔てた向こうに、神の国の蓬莱山があることに、民衆が気付いてしまうのです。

蓬莱山では、民衆が「たから」として扱われています。
そして太古の昔に、やってきた救世主たちと同じ、奪うのではなく、作ること、互いに支え合うことを、文化にしています。
そこは豊かで、食べ物も、そして金(Gold)も豊富で、人々が着ている衣装は、なんと野良仕事をしている農民まで、鮮やかな柄の入った高級な着物を着ています。

名前だけは皇帝を名乗ったものの、そんな蓬莱山がすぐ近くにあることが人々にバレたら、国は崩壊します。
自分たちが行っている非道の限りをつくした暴政が、暴政しかない世の中なら、それが常識ですが、それが実は非常識なことなのだと民衆が気付いてしまうのです。

だから、皇帝たちは、「わが国こそが世界の中心であり、周辺にいるのは弱国の蛮族に過ぎない」と強弁し、それを国の常識、価値観にしていきました。
そして、蓬莱山こそが、悪の帝国であり、世界を混沌に陥れている張本人だと、世界中に触れ回るようになりました。
それは、互いの国の民衆にとって、とっても不幸なことでした・・・・。
しかし皇帝やその側近たちにとっては、統治のために必要なことでした・・・・・。

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とまあ、童話もどきを書いてみました(笑)。
ウシハク統治者にとって、目の前にシラス統治が行われる蓬莱山があることは、民衆に自分たちの暴政を気づかせるたいへんに恐ろしいことになるということは、ちょっと想像力を働かせれば、すぐに理解できることです。

ならば、蓬莱山を、「できることならこの世から抹殺したい」と考え、蓬莱山にスパイを潜りこませて蓬莱山の治安を圧迫させ、また蓬莱山の民衆に、蓬莱山こそが悪であると信じこませるようにしなければなりません。

けれど、それを直接行うと、はなはだ外聞が悪い。
ではどうするかといえば、ウシハク統治が行われる国と、その蓬莱山の間にある半島人を刺激して、蓬莱山こそ悪であると、声高に叫ばせ、蓬莱山内部を混乱の渦に巻き込んでいくことが、これは自国の体制を維持するために必要な政治ということになります。

私たちは、そういう現実の中にあるのだということも、知っておく必要があると思います。
シラス国というのは、漢字で書いたら「知国」です。
シラス国が民衆こそが最高かつ至高な「たから」とされる、究極の民主主義国家であということは、民衆の側も、そして統治者も、全国民が「知」らなければ、その存在のありがたさがわからなくなってしまうのです。

なぜなら、良いことは、空気のようにあたりまえのことになりがちだからです。
一方、悪いことは、惨劇を伴うだけに、瞬く間に世間に知れます。
まさに悪事千里を走るなのです。

人は空気がなければ、死にます。
けれど、その空気の汚れも、空気が薄くなることも、茹でカエルのように、徐々に起きたら、誰も気づかないのです。
だから、空気は「あってあたりまえ」のものではなくて、積極的に、自分たちがその美しさを守っていかなければならないということは、知ることによってしか賄うことはできないのです。
汚れてからでは遅いのです。
だから、そのありがたさを、皆が知る必要があるのです。
だから「知国」なのです。

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今なら、よく分かる。

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頑張れ、日本