月約40万円の収入がありながら生活保護受給できるんだ!

 大阪府吹田市の釣具店で昨秋、9~14歳の小中学生の子供3人に釣り具セットを万引させたとして、窃盗容疑で、同府豊中市の防水工の父親(36)と母親(33)が逮捕される事件があった。両親は「子供が勝手にやった」と主張したが、携帯電話のメールで子供に指示を出していたことが大阪府警の捜査で裏付けられたという。
父親は、月約40万円の収入がありながら、生活保護費を不正受給していたことも判明。金欲しさに子供を犯罪行為に加担させる親の態度について、専門家は「明確な虐待行為だ」と指弾した。

一家が大阪府吹田市の釣具店を訪れたのは昨年10月25日の昼下がり。土曜日ということもあり、店内は大勢の客でにぎわっていたが、男性店長は家族の様子をよく覚えていた。親子は5人全員が金髪で、服装も上下黒のジャージーでそろえており、「目立つ家族だと思った」からだ。
 店長の証言によると、5人が最初に向かったのは、店内の釣り竿などが置かれているコーナー。釣り具セットを取り囲み、何かを話し始めた様子は“家族会議”のようだった。
 その直後、両親は子供3人を釣り具セットのコーナーに残し、店の奥へ移動した。並んでいた商品を手に取り、「この道具は何に使うんですか」と店員に声をかけ、しばらくの間、質問攻めにした。
 結局、両親は釣りの仕掛けなど数点(数千円分相当)を購入し、先に店の外へ出ていた子供3人と合流して、車で帰っていった。
 しかし、一家を接客した店員は「何かがおかしい」と違和感を抱いていた。念のため防犯カメラの録画映像で一家の様子を確認すると、驚くべき犯行の一部始終が記録されていた。

店長らが防犯カメラの映像を確認すると、最初に行動を起こしていたのは中学生の長男だった。
 長男は店の出入口に設置された盗難防止装置に近づき、手に持った釣り具セット1点を装置に近づける不審な動きを何度も繰り返した。本来なら未精算の商品に装置が反応してブザーが鳴るはずだったが、その日は運悪く故障しており、静かなままだった。
 次の瞬間、長男は商品を手にしたまま店外に駆け出した。兄の後を追うように、残った2人のきょうだいもそれぞれ釣り具セットを手に取り、店外へ。そのまま駐車場に止めていた車に向かっていった。
 この間、店員は質問を繰り返す両親に気をとられ、万引に全く気づいていなかった。
 防犯カメラには、3人が釣り具セットを手に車に乗り込む直前、父親がいったん店を出て、車のドアの鍵を開ける姿も写っていた。
 店長は「両親が店員を質問攻めにしたのも、仕掛けを買ったのも、店員の目を子供からそらす目的があったのだろう。計画的な犯行なのは明らか」と憤った。
母親「子供が勝手にやった」
 「また来るはず」
 釣り具セットを3つもせしめた親子の巧みな〝連携プレー〟に再犯の可能性が高いと判断した店長は、親子5人の特徴を部下の店員たちに伝え、注意を呼びかけた。
 1週間後の11月1日、店長の予感は的中した。
 この日は子供たちの姿はなく、来店したのは両親だけ。2人は釣りの仕掛け1点(約1300円相当)を手に取ると、何事もなかったかのように出入口を通過しようとした。
 その瞬間、「ピー!」とけたたましい警報音が店内に鳴り響いた。前回、故障していて万引を防げなかった盗難防止装置のブザーはとっくに修理されていた。


父親は大きな音に驚き、仕掛けを持ったまま、駐車場に止めていた車に飛び乗り、母親を現場に置き去りにして逃走した。
 1人で取り残された母親だが、店員に「万引なんて知らない」と言い張り、父親のことを「たまたま釣具店で知り合った」と説明して無関係を装った。1週間前の万引についても、「子供なんて知らない」と関与を認めなかった。
メールの分析で万引指示を裏付け
 同店からの通報を受けた吹田署は母親を任意同行。店から防犯カメラの映像を提供してもらい、子供3人が釣り具セットを持ち去った10月25日の事件から、本格的な捜査を開始した。
 同署は、事件当日の防犯カメラの映像を詳細に分析し、押収した一家の携帯電話のメールも分析。その内容から、両親が子供に万引を指示していたことが裏付けられたため、今年2月3日、窃盗容疑で両親の逮捕に踏み切った。両親は「子供が勝手にやった」と容疑を否認していたという。
 実行犯となった子供3人のうち、14歳で中学生の長男は窃盗の非行内容で家裁に送致され、少年鑑別所に移送された。12歳の次男と9歳の長女は保護され、同署は児童相談所に通告した。
 その後、母親は窃盗罪で起訴され、父親は処分保留となったが、同署は2月23日、昨年11月の2回目の万引事件の窃盗容疑で両親を再逮捕した。2人とも同罪で起訴され、公判中だ。
専門家「明らかな虐待」
 万引被害にあった釣具店の店長は怒りが収まらない様子だ。ただ、両親の指示を受けて万引に及んだとされる子供の話になると、複雑な表情を浮かべた。
 「9歳の長女は自分が何をしているのか全く分かっていない様子だった。罪の意識もなく、親の言うことを聞いたまま犯罪に関わるなんて…」


大人の事情を知らない子供を犯罪に加担させる事件は、過去にも起きている。
 吹田市の地下鉄御堂筋線江坂駅近くの路上では平成23年9月、当時小学5年の男児が父親からの指示を受け、通行人に“物ごい”する事件があった。
 男児が「100円でもいいので貸してほしい」と道行く人に声をかけていたのを、吹田署員が不審に思い事情を聴いたところ、男児は「父親からお金をめぐんでもらう方法を教えてもらった」と説明した。
 そのやりとりの様子を、近くに止めた車の中からうかがっていた父親は、現場から逃走した。同年10月、児童福祉法違反容疑で逮捕された父親は当初、「子供が勝手にやった」と容疑を否認していた。
 埼玉県では25年7月、同県川口市に住む女と内縁の夫が、女の長男と長女をそそのかし、蕨市電気店ブルーレイディスクレコーダー計4台と液晶テレビ1台(約20万円相当)を万引させる事件があった。
 埼玉県警は同年10月、窃盗容疑で女と内縁の夫を逮捕。2人はともに容疑を認め、「生活が苦しく子供に万引させた」と供述した。
 親が子供に万引させる行為について、関西学院大人間福祉学部の才村純教授(児童福祉論)は「明らかな虐待だ」と指摘。「子供が『親から認められたい』という精神的飢餓感を抱いて、親の要求に応えるように犯行をエスカレートさせることもある」と言う。
 事件の背景には貧困など各家庭のさまざまな事情が複雑に絡んでいることが多い。犯行を予測するのは難しいが、才村教授は「行政や児童相談所がなるべく早めに介入し、子供や親からじっくり話を聞いて個別の事情に合わせて対応していくことが必要だ」と話している。