日本は戦争に負けたが、3千年の歴史と誇りを失ったわけではない。日本は再び立ち上がる。世界は再び日本に驚くだろう

昭和28年、中東のイランで起きた事件です。
 イランの石油を支配していた英国の国営会社「アングロ・イラニアン」に対し、イランの首相が石油を国営化しました。すると、英国はイランを海上封鎖し、タンカーを撃沈すると脅しました。
 福岡出身で出光興産創業者の出光佐三は28年4月、反対を押し切り、自社のタンカー「日章丸」をイランに差し向けた。船長は英海軍の包囲網を突破してイランに入り、たんまりと石油を積み込み、遠く離れた日本に、丸腰のまま戻ったんです。
 
 この事件の資料を読んで体が震えた。全身汗びっしょりになった。
 人間ドラマがすごかった。何よりすごいのが、計画を立案し実行した出光佐三です。これほどの男がいたのかと思った。銭儲けだけではない。日本のために戦ってきた男です。
 出光佐三終戦時は60歳だった。30年以上かけて築いた財産は敗戦ですべて没収され、失った。でも、そこから立ち直ったんです。
 
 敗戦から2日後の昭和20年8月17日、社員を集めてこう言いました。
 「日本は戦争に負けたが、3千年の歴史と誇りを失ったわけではない。日本は再び立ち上がる。世界は再び日本に驚くだろう」
 
 そして、海外から帰ってくる社員の1人もクビを切らなかった。社員は「もう一度出光のおっさんとやってみよう」と会社に残り、8年後、日章丸事件で世界を驚かせたんです。
 
 東日本大震災が起き、不況も重なった。でも69年前、日本はもっとひどい状況だったが、立ち直ったじゃないか。そんな思いで、「海賊とよばれた男」を書きました。
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