「史上最悪の総理」歴史を刻印中

【明日へのフォーカス】論説副委員長・高畑昭男 「沈黙せよ」とは言わないが
2010.5.14 03:06
 米紙に「ルーピー」と書かれ、自らも「愚かな総理」と称した鳩山由紀夫首相だが、歴史をふり返るとアメリカ大統領にも奇人、変人と呼ばれる人がいた。

 1923年、前任者が急死して副大統領から昇進したカルビン・クーリッジもその一人だ。「ムダ口はきかない」との信条からか、極端に口数が少なかった。

 側近や記者団との懇談でも、ほとんど「イエス」か「ノー」でしか答えない。それなのに、最後には「私の言葉を引用するな」と念を押して記者たちをあきれさせ、「サイレント・カル」(だんまりのカル)のあだ名がついた。

 ある晩餐(ばんさん)会で、同席した貴婦人から「あなたと3語以上の会話をしてみせる、と友人とカケをしたんです」と、親しく話しかけられた。クーリッジは即座に「ユー・ルーズ(あなたの負けです)」と答え、たった2語で会話が途絶えたという逸話が有名だ。

 クーリッジは「最も安眠をむさぼった大統領」とも呼ばれる。朝寝坊が多い上に、毎日2時間の昼寝を欠かさず、夜はさっさと寝室へ消えた。それでも6年の任期を全うできたのは、内政・外交に重大懸案がなく、何もせずとも国政が治まっていたからだ。

 鳩山氏はさしずめ「だんまりカル」とは対極的だ。問題は単に冗舌というだけでなく迷言、虚言で国政を危うくしていることだ。

 普天間飛行場移設問題では、昨年から「最低でも県外」と訴えていたのが実現不可能とわかると、民主党の公約ではなく、「私自身の代表としての発言だ」と言い訳した。公党の代表が党首討論会で公言したことが「公約でない」とは耳を疑う。世間ではこれを「場当たり発言」というが、本人はそうでないと言い張る。もはや無責任に対する怒りを通り越して、ピエロとしかいいようがない。

 首相が何か貢献したとすれば、私たち国民に英語の知識を深めてくれたことぐらいだろう。昨年11月、オバマ米大統領に「トラスト・ミー(私を信頼してほしい)」と請け合いながら、その信頼をみごとに裏切ってしまった。

 たった2語でも、信頼を損なったしこりは長く残る。核安全サミットでは公式首脳会談を断られ、10分間の非公式懇談では、「キャン・ユー・フォロースルー(約束を果たせるのか)?」と大統領に迫られたという。あげくの果てが「ルーピー」だった。

 ビジネス英語教材で「やってはいけない」の見本のようだった。というよりも言語以前に、信頼と一貫性を欠いた指導者が国際社会でどう見られるかを示すまたとない実例を演じてしまった。

 「だんまりカル」になれ、とはいわない。ただ、せめて国の安全や日米同盟をこれ以上危うくさせないために、日米合意に基づく現行計画に立ち返ってほしい。

 現行計画は完璧(かんぺき)ではないかもしれないが、海兵隊のグアム移転や嘉手納基地以南の基地返還も含めて「抑止力の維持と基地負担の軽減」を満たした最も現実的な解決策といえる。にもかかわらず、首相は「なぜ現行計画ではいけないのか」をいまだに論理だてて国民に説明していない。多弁な人柄を考えてもおかしなことだ。

 「5月末決着」の公約達成も断念したという。渡部恒三衆院副議長は先月、「政権誕生から7カ月。しなければよかったと思うことばかり」と嘆いた。このままでは、「史上最悪の総理」としか国民の記憶に残らないのではないだろうか。(論説副委員長)