99%の努力と1%の奇跡が呼び起こした快挙

金星の周回軌道投入に成功し、鮮明な画像を地球に送ってきた探査機「あかつき」。5年越しの再挑戦が実を結び、宇宙航空研究開発機構JAXA)の研究チームは歓喜に包まれた。逆境からはい上がり、奇跡的な復活を果たしたチームあかつきの勝因を探った。

 ■驚きの初画像

 「画像を見て、何じゃこりゃと思った。あんな画像が撮れたのは世界で初めて」。JAXA相模原キャンパスで9日夜に行われた記者会見。計画責任者の中村正人プロジェクトマネージャは、あかつきが捉えた金星の画像に驚きを隠さなかった。

 公開された画像は、赤外線と紫外線のカメラで撮影した計3枚。金星を覆う雲の様子が写っており、これほど高精細の金星画像は例がないという。白黒だが、表面の縞模様がはっきりと見える。科学担当の今村剛プロジェクトサイエンティストが興味深い解説をした。

 「雲の温度のむら、分布が見えている。不思議な面白い研究テーマだ。紫外線画像では雲の分布だけでなく、金星の雲の材料である二酸化硫黄が大気の循環で雲の上に持ち上げられ、にじみ出てくる様子を捉えたという見方もできる」

 日本の惑星探査は苦難の歩みを続けてきた。火星探査機「のぞみ」は電源系統のトラブルが続出し、平成15年に周回軌道投入を断念。雪辱を期して22年に打ち上げたあかつきも、主エンジンの故障で一度は失敗した。ようやく手にした詳細な惑星画像は、日本の宇宙探査史に新たな1ページを記すものとなった。

 「われわれはこれでやっと惑星探査の世界の仲間入りができた。日本がデータを世界に供給できるようになった」。中村氏は感無量の表情で語った。

 世界の惑星探査の歴史を見ると、先行した米国や旧ソ連も多くの失敗を経験している。しかし、機体が損傷して惑星の周回軌道投入に失敗した探査機が、再挑戦で成功した例はなく、あかつきが世界初の快挙だ。

 宇宙探査に詳しい的川泰宣JAXA名誉教授は「今回の成功で、宇宙探査における日本の国際的存在感は間違いなく高まっただろう。米国のメディアはかなりほめている。これまでも月探査機『かぐや』の成果などを世界に示し評価を得てきたが、惑星探査にも参入できた。小惑星探査機『はやぶさ』の帰還の記憶もあり、日本は一筋縄ではいかない、諦めない国との評判もさらに高まるはずだ」と話す。

 ■「寝ても覚めても計算」

 逆転勝利の要因はどこにあったのか。まず挙げられるのは、再投入に最適な軌道を正確に計算できたことだ。軌道は投入する時刻と場所によって、何万通りもある。太陽から見て探査機が金星の陰に入る「日陰(にちいん)時間」も考慮しなくてはならない。日陰に入ると太陽電池パネルに日が当たらなくなり、電力が得られなくなるが、機体に搭載した電池は90分しか持たないからだ。こうしたさまざまな条件を考えて、最適な軌道を求めるのは並大抵のことではなかった。

 軌道計算を担当した広瀬史子主任研究員は「解析するときりがなく、2年半くらい延々と解析した。よい答えが見つかるまで、寝ても覚めても計算したのが大変だった」と振り返った。

 異常事態が起きた場合に備え、多くの対処法を入念に検討して臨んだことも挙げられる。あかつきは当初の失敗から5年間、太陽の周りを回り続け、想定を最大3割も超える厳しい太陽熱にさらされてきた。熱に強い面を太陽側に向けてしのいできたが、どこかが故障していても不思議ではない。

 再投入は前回の投入時に故障した主エンジンの代わりに、パワーが劣る姿勢制御用エンジン4基を噴射して達成した。だが、成功するかどうかは、やってみないと分からない状況だった。そこで予定通り噴射できなかった場合、機体の向きを反転させ、反対側にある別の姿勢制御エンジンを使うことも想定していた。

 結果的にエンジンは想定以上の能力を発揮し、金星から最も離れた場所で高度44万キロの軌道に投入できたが、多くの対策に支えられて実現した成功といえるだろう。

 背景には日本のものづくりの力もあった。あかつきは一部の輸入品を除いて日本製だ。軌道投入は4基の姿勢制御エンジンが均等に噴射する必要があったし、機体のどこかに異常があれば失敗に終わった可能性もあった。

 中村氏はエンジンを噴射した7日の会見で「メーカーが非常に丁寧に作ってくれた。軍艦のようだ。どこもほとんど壊れなかったのは大変なこと」と企業の技術力をたたえた。

 ■チームスピリット

 5年間に及んだ再挑戦を振り返って、あかつきチームが9日の会見で口をそろえたのは、宇宙ファンや家族など多くの人に対する感謝の気持ちだった。

 「たくさんのメッセージを寄せていただいて、失敗後も温かく見守ってくださった皆さんの気持ちがなければ耐えられなかった。大変感謝している」(中村氏)

 「これほど困難な運用を可能にした工学チーム、膨大な数のメーカーの皆さんに感謝している。さらに常日頃、いろんな形で応援して元気づけてくれる一般のファンの皆様、ありがとうございます」(今村氏)

 「自分が一番犠牲にしてきたのは娘や夫。まずは家族に感謝したい。NASA(米航空宇宙局)のJPL(ジェット推進研究所)に本当に支えてもらっている。あかつきを海外局で運用して軌道を決定してもらった」(広瀬氏)

 困難を乗り越えて、ようやく一歩を踏み出した日本の惑星探査。新たな道を切り開くことができた最大の要因は、決して諦めない強い気持ちだろう。惑星探査で日本は欧米やロシアの後を追う立場だが、中村氏はこう強調した。

 「世界でやっていても、自分でやってみないと分からないことがあるのではないか。人がやったことでも、歯を食いしばって習得することが大事だ」

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  「たくさんのメッセージを寄せていただいて、失敗後も温かく見守ってくださった皆さんの気持ちがなければ耐えられなかった。大変感謝している」(中村氏)

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敗戦後だって
日本は失敗しても、温かく見守ってくれる多くの人達が支えているはずだと
確信できる

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こうしたすごい成果は「ノーベル賞」では多分評価できないでしょう

神は細部に宿る・・ですね

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