「現代」がつくところは怪しい・・

テレビ報道の「最後の砦」NHKでさえ、いま日本の至るところで猛威を振るう、反知性主義に屈してしまうのか。
籾井会長に真っ向から立ち向かってきた法学者が、重い口をついに開いた。

■官邸に叱られたくないから(←クローズアップ現代を擁護)

NHK幹部の間で、『クローズアップ現代』は来年3月末で打ち切りになるという方針が大筋で決まったようです。また同時に、7時からの『ニュース7』の放送時間も短くし、現在の30分を15~20分にするという案が出ている」
ニュース7』の後、そのまま7時30分から始まる『クローズアップ現代』を見るのが習慣という読者も多いことだろう。
'93年4月の開始から22年あまり、放送回数は3500回を超え、今やNHKの看板番組といわれる『クロ現』。その「打ち切り」について語るのは、東京・渋谷の放送センターに勤務するNHK職員である。この職員が続ける。
「『クロ現』の打ち切り話は、10年ほど前から局内で取り沙汰されていました。それが安倍政権下になってから再燃し、具体化したということです。報道局の職員は抵抗していますが、止められそうにない。『クロ現』は今年3月に発覚した『やらせ疑惑』の不祥事以降、旗色が悪いですから。
また上層部、つまり籾井勝人会長の側近は、『報道番組の時間が短ければ、やらせのような不祥事も起こらないだろう』と話しています。政治のニュースも減るので、官邸からの『お叱り』もなくなる、と」
この職員は「『クロ現』の後番組には、報道以外の番組を入れる方向で調整が進んでいる」とも話す。NHK上層部は、「政権批判を許さない安倍官邸との摩擦を避ける」ためにも、報道番組の放送時間を短縮しようとしているのかもしれない。別のNHK関係者も言う。
「官邸は、籾井会長に対して『次に何かあったらクビだ』と暗に通告しているとも聞きます。つまり上層部にとっては、トラブルの種を潰すという意味でも『クロ現』の打ち切りは都合がいい」
籾井氏は'14年1月のNHK会長就任以来、「政府が右と言うものを左とは言えない」、「(従軍慰安婦は)どこの国にもあったでしょ」と述べるなど、その言動がたびたび議論の的になってきた。
また、籾井体制下のNHKで以前から指摘されているのが「政権からの圧力に屈して、報道の内容を曲げているのではないか」という疑惑だ。
もしも、「政権批判は許さない」という官邸の意向を忖度して、NHK上層部が「『クロ現』打ち切り」を決めようとしているのだとしたら--おそらく「政権による不当な干渉だ」という批判は免れないだろう。
そんな中、声を上げた人物がいる。'12年3月から今年2月まで、NHK経営委員会委員長代行を務めた、上村達男早稲田大学法学部教授である。
上村氏は経営委員在任中、籾井会長の言動をたびたび批判し、真っ向からぶつかることもいとわなかった。氏が10月下旬に上梓した『NHKはなぜ、反知性主義に乗っ取られたのか』(東洋経済新報社)には、その様子が生々しく記されている。
本誌は上村氏にインタビューを行った。

■反発する者は押し潰す(←クローズアップ現代を擁護)

私は『クローズアップ現代』打ち切りについては耳にしていませんでしたが、番組には出演しましたし、キャスターの国谷裕子さんを高く評価していますので、まさか、という思いです。国谷さんも、内心ではさまざまな思いがあるでしょう。
籾井会長は、番組に口をはさみ、潰すことが自分の権力のアピールだと考えかねないような人物です。そんなつまらないことのせいで、報道番組に割かれる時間が減るようなことは、あってはならないと思います。
NHK内部はいま、ものごとの筋道や手続きを軽んじ、トップに反発する者を押し潰そうという「反知性主義」に冒されていると見られても、仕方ない状況にあります。本来ならば、「不偏不党」を体現すべきNHK会長の地位が、それと正反対の人物に乗っ取られてしまっている。動揺し、苦しんでいる職員がたくさんいるのです。
経営委員を退いたいま、NHK内部の問題について発言するのは、気が重いことです。しかし誰かがやらなければ、取り返しがつかなくなる。私はそう思って今回、声を上げることに決めました。
籾井会長と初めてお会いしたのは、おととしの12月20日に行われた、経営委員と会長候補者の面談です。私は、彼の言葉遣いが少し乱暴なことに違和感を抱きましたが、任命には賛成しました。実はこの面談の際、女性の経営委員の間から、「この人で大丈夫かしら」という声がすでに出ていたんです。女性の勘は鋭いですね。
NHK会長の職は、内部昇格でなければ大企業の幹部クラスの方にお願いするのが通例ですが、嫌がられることが多いんです。責任は重いし、不祥事があると国会に呼ばれて袋叩きにされるのですから。
でも籾井さんは面談のとき、満面の笑みで「うれしくて仕方ない」という様子でした。終始ニコニコしながら、「放送法を遵守する」と、何回も言っていましたね。

■「大人」にふるまえない(←意味不明)

年が明け、昨年1月25日に行われた会長就任会見で、私は驚愕しました。
籾井会長は、この会見で「(NHKの)ボルトとナットを締め直す」と言いました。その時、まだ彼はNHK内部のことをまったく知らなかったにもかかわらず、そう発言したんです。
誰かに前もって「NHKというのはとんでもないところだ」「最初が肝心だから、ガツンとかましてやれ」などと吹き込まれていたのではないか、と疑われても仕方のない発言です。世間の人も、そう感じたのではないでしょうか。
私はその後、同年3月11日に行われた経営委員会で、「(籾井会長が就任会見で述べた)『右と言われたら左と言えない』という発言や、特定秘密保護法案について『通っちゃったのだから』など、この種の発言は、NHKのトップとして間違っている」と、籾井会長を批判しました。彼は「政府の言うとおりに放送する」と言っているに等しいわけですから。
私の批判を聞いた籾井会長は、相当腹を立てたようで、次の3月26日の経営委員会に、反論を書いた紙を持参してきました。私は残念ながらその紙を持っていませんが、口をきわめて私を批判するような、すさまじい内容だったのは間違いありません。
しかし籾井会長は、その反論文を読み上げようという段になって、いきなり「ここからはオフレコにしてくれ」と言うのです。それで私が「オフレコなどとんでもない」と言うと、今度は「じゃあ読むのをやめる」「(反論が)公表されると、マスコミの餌食になる」と言い出しました。
経営委員に対してさえこの調子ですから、NHK職員に対して、普段どれほどひどい対応をしているか、想像がつくというものです。何せ、理事に対しても「お前なー」という言葉遣いなのです。常に上下関係や敵味方の関係でしか、物事をとらえられないのです。
こうした例は、枚挙に暇がありません。
会長就任からまだ間もないころ、民主党NHKの予算の説明に出向いたことがあります。その際、籾井会長は、就任会見の発言を質されて「予算の説明に来たのに、何だ!」と怒鳴り始めました。
その後の経営委員会でも、議論の途中で突然興奮し始め、「こんなところにいられない」と席を立って出て行くことがありました。「公人として、もう少し大人にふるまえないのか」と思います。
反知性主義の人物の特徴は、「話し合いや議論では、自分は勝てない」と自覚しているので、「オレは絶対に正しい」と強弁し、人の意見を聞かず、不都合になると怒り出すこと。籾井会長は、このすべてに当てはまる。
NHKのトップはインテリであるべき」とは思いません。しかし、籾井会長の口からは、「こんな番組が好きだ」「こうすればもっと面白くなる」といった、番組に対する思いを一度も聞いたことがないのです。
普段番組を見ていないせいかもしれませんが、それでいて「NHKの報道は偏向している」という認識だけは持っているのだから、不思議です。
結局のところ、籾井会長の関心は人事だけにしか向いていないように思えます。しかも彼は、「自分に従う者は引き上げ、逆らったり、諫言する者は遠ざける」という、私情にもとづく人事を行って憚らないのです。

安倍総理と似ている(←意味不明)

たとえば、籾井会長は就任して早々に、着任してまだ1年足らずだった、秘書室長の大槻悟氏を交替させています。秘書室からの情報漏洩を疑ったせいだと聞いていますが、「籾井会長がプライベートのゴルフで専用車を使おうとしたのを大槻氏が咎めたことがあり、それが気にさわったのではないか」と言う人もいます。
後任の秘書室長・湧川高史氏は、会長の側近として、国会答弁の際などに想定問答集を用意して付き添い、答弁のペーパーを渡す役をしていました。彼はその後、いわゆる「ハイヤー問題」が発覚した直後に退任していますが、二人の様子は「二人羽織」と揶揄されるほどでしたから、ご記憶の方も多いでしょう。
理事の人事でも、籾井会長が理事全員に日付の入っていない辞表を提出させたことが問題になったとき、国会答弁で会長がシラを切り続ける中、最初に辞表の提出を認めた塚田祐之専務理事は、閑職に追いやられてしまいました。
民間企業なら、役員の人事と職掌は取締役会や指名委員会で決まります。しかし籾井会長は、意に沿わない人物に報復ともとれるような人事を行い、局内に「籾井派」を増やすことに汲々としています。遠ざけられた理事の中には、退任の挨拶で涙を流す人もいました。
何でも理詰めで決めるべきだ、と言いたいわけではありません。しかし、世の中には最低限守らなければならないルールや、しかるべき地位の人物が、身につけておくべき徳というものがあります。
法曹界からの反発や、国会での正しい手続きを無視して法案採決を進める安倍総理と、他人の意見を聞かない籾井会長の間には、「反知性主義」という共通点があるように思えてなりません。
私は籾井会長が、「オレは宴会は得意だ」と公言しているのを聞いたことがあります。根は悪い人ではないのだと思います。しかし、彼がNHK会長に向いていないことだけは明らかです。
(後記)本誌報道後、籾井会長は「来年度の番組編成については今、検討している最中。私は『なくなる』とは聞いていない。NHKの看板番組なので、丁寧に扱うと信じている」と述べた。
週刊現代」2015年11月14日号より
 安倍晋三首相は9日、同日発売の「週刊現代」に掲載された記事が「全くの虚偽」などとして、講談社野間省伸社長らに対し、事務所を通じて記事の撤回と訂正、謝罪を求める抗議文を送った。
 誠実な対応がない場合は「法的措置も検討する」としている。週刊現代は、安倍首相が2日の日韓首脳会談の最中に体調に異変を来たし、「ろれつが回らなかった」などと報じた。