【衝撃事件の核心】「動くサンドバッグや」命果てるまで続いた〝鬼畜〟の少年暴行 捜査員を絶句させたスマホの凄惨いじめ動画


 梅雨入り間もない6月8日。
 日没前後から雨が降り始めた大阪府河内長野市の公園に、傷だらけの男性が力なく横たわっていた。近くに住む専門学校生、工藤勇人さん(19)。意識不明の重体で搬送され、1カ月後に亡くなった。工藤さんに暴行したとして、大阪府警は傷害容疑で高校時代の同級生2人を逮捕。2人は傷害致死罪で起訴された。「動くサンドバッグや」「格闘技の練習台」。工藤さんは2人から殴る蹴るの暴行を受けた末、わずか19年の短い生涯を閉じた。捜査で明らかになったのは、高校時代から4年近くも続いた陰惨で壮絶な「いじめ」だった。距離を置こうとした工藤さんを執拗(しつよう)に呼び出しては、暴行の様子をスマートフォンで動画撮影。押収されたスマホには、痛がる工藤さんに格闘技をかけて喜ぶ2人の姿が写っていた。「鬼畜の所行」の全容とは-。
「殴るときはお前の服」
 傷害致死罪で起訴されたのは元専門学校生(20)と大学生(19)。6月8日昼過ぎ、2人は「スマートフォンの液晶保護フィルムを壊された」という口実で工藤さんの自宅を訪れた。
 捜査関係者によると、そもそも「壊れた」とは、保護シートの一部がめくれた程度の話。実際に工藤さんが壊したのかどうかも分からないという。結局、理由は何でもよかったのだ。
 当時、工藤さんの両親は不在で、在宅していたのは工藤さんだけだった。玄関の呼び鈴を何度も鳴らす2人。身を縮めるような思いで呼び鈴を聞いていたに違いない。
 「このチャイム、壊れてるんちゃうか」
 やがて2人は、勝手に家の扉を開け、中をのぞき込んだ。工藤さんの部屋は1階。工藤さんが中にいるのを見つけると、無断で部屋に上がり込んだ。そして、持参したカップ麺を悠々と平らげた。
 「そろそろ行こか」
 午後1時ごろ、2人は工藤さんを自宅近くの公園に連れ出した。一瞬、雨が降った。2人は工藤さんに自宅に傘を取りに帰るように命じ、さらにこう続けた。
 「お前を殴るときに俺たちの服が汚れるから、お前の服を持ってこい」
 工藤さんは言われた通り、傘と服を2セット用意して戻ってきた。公園で2人はその服に着替えた。自分たちの服は持参したリュックサックにしまうと、バイクのシート下に収納した。準備は整った。
 工藤さんにとって地獄のような時間が始まった。
タックルで意識を失う
 顔を殴る。腹を殴る。倒れたところを足蹴りする。柔道技の背負い投げをかける。タックルで押し倒す-。痛がる工藤さんに、2人は交互に、何度も何度も執拗に暴行を加えた。
 自分がこの場を我慢すれば全てが丸く収まる。このとき、工藤さんはそう思っていたのか。それとも、2人からはもう逃げられないと絶望的な気持ちだったのか…。ただ一つ確かなことは、恐怖心は想像を絶するものだったということだ。
 「お前、ケータイ壊してただですむと思うなよ!」
 公園の周辺に響き渡る怒声。2人は殴り疲れると、公園のシーソーで寝そべり、その間も、工藤さんをののしり続けた。
 怒声に気付いた近所の男性が3人に近づき、「年寄りが住む町だから勘弁してよ。大声出さないでよ」と注意した。ここでは素直に従った2人。しかし、2人は北に約500メートル離れた別の公園に工藤さんを連れて行くと、再び暴行を繰り広げた。
 1時間半ほど経過したころ、強烈なタックルが決まった。工藤さんは頭を強打、白目をむいて倒れ込み、意識を失った。
 約1カ月後の7月4日。工藤さんはそのまま帰らぬ人となった。
当日、口裏合わせまで
 騒ぎに気づいた近所の住民が公園に駆けつけ、倒れたまま動かない工藤さんをみて、すぐさま消防や警察に通報した。周囲が騒然とする中、2人がいそしんだことは口裏合わせだった。
 警察に事情を聴かれることを見越して、示し合わせていたのだろう。大阪府警は翌日の6月9日、傷害容疑で2人を逮捕。2人は平然とこう供述した。
 「遊具の上で相撲のようなことをしていたら工藤君が落ちてしまいました」
 事実とは全く異なる内容だ。捜査員が2人を追及する。2人の心配は工藤さんが意識を取り戻し、嘘がばれることだった。2人は間もなく正直に話し始めたが、端的に言えばそれは保身のためだった。
 府警の捜査が進むと、2人が4年近くにわたり、工藤さんに暴行を繰り返していたことが明らかになる。
全裸で川に飛び込ませ…
 「高校時代から呼び出して殴る蹴るなどしていた。50~60回は繰り返した」
 府警の調べに、2人はこう供述。工藤さんとは高校2年生から同級生に。「いじめ」が始まったのもこのころだったとされる。
 「コンビニでパンなどをおごらせたり、数千円を要求したりしたこともあった。巻き上げた金は総額で10万円以上になると思う」
 2人のスマートフォンには、工藤さんに繰り返し暴行する様子が残されていた。なぜ動画を保存していたのか問いただした捜査員に、2人は何食わぬ顔で答えた。
 「自分の技が決まった瞬間をとっておきたかったし、技が決まったかどうかをしっかり確認したかった」
 残されていた動画は4本で、数秒~数分程度だったが、捜査関係者は「いずれも見るに堪えない光景だった」と明かす。
 殴る蹴るの暴行を受け、うめき声を上げて痛がる工藤さんに、2人は格闘漫画に登場するような技を次々とかけていた。撮影場所は河内長野市や富田林市内の駐車場、公園。人目につかない場所ばかりだった。
 いじめはこれだけではなかった。今年4月には、工藤さんを全裸にして川に飛び込ませていたのだ。まだ肌寒い時期の、しかも夜中だ。エスカレートする2人のいじめは留まるところを知らない。殴るための格闘家専用のグローブまで購入していた。
 工藤さんを殴る前、2人の間でやりとりされた無料通信アプリ「LINE」の記録が残されている。犯行の陰湿さとは裏腹に、あまりに無邪気な内容だった。
 「今日、なんかむしゃくしゃするな」
 「じゃあ、動くサンドバッグやな!」
止める手立てはなかったか
 4年にわたって続いた「いじめ」は、工藤さんの死で終わりを迎えた。
 いじめと呼ぶにはあまりに悪質な今回の事件。最悪の結末に至る前に、何とか止める手立てはなかったのだろうか。
 実は、工藤さんは通学先の私立高校に「SOS」を発していた。高校2年の年末、保健室を訪れ、養護教諭に2人のうち1人の実名を明かし、いじめに近い状態にあると打ち明けていたのだ。
 だが、この情報が学校全体で共有され、対策が講じられることはなかった。
 「僕は小さいころから要領が悪くて、みんなにネタにされるんです。これ以上からかわれるのは嫌だし、自分のことで先生たちに迷惑をかけたくないので、このことは黙っていてくれませんか」
 工藤さんがこう言って、口止めを求めたからだ。
 養護教諭は担任にだけ伝え、様子を見守ることになった。だが、その見守りは全くの逆方向に作用してしまった。あろう事か、学校側は2人を「広い意味で友達と捉えていた」(教頭)ため、担任は「何かあったら工藤をかばったってくれよ」と、加害者の2人に呼びかけてしまったのだ。
 工藤さんは失望したのかもしれない。これ以降、学校側が何を尋ねても、「いじめ」について話すことはなくなった。
 高校3年の11月、工藤さんはこの高校を退学し、通信制の別の学校に編入した。だが、その後も「いじめ」がおさまることはなかった。教頭は「本人が嫌がっても、もっと介入して『いじめ』を聞き出すべきだった。こんな結果になったことを非常に悔やんでいます」と振り返った。
無惨に断ち切られた夢、母の苦悩
 編入先の学校を無事に卒業し、ゲームのプログラマーを目指して専門学校に通っていた工藤さん。夢に向かって歩み始めた矢先、無残な形で断ち切られた。その無念さはいかばかりだろうか。
 事件後、工藤さんの母親は自宅で、SIMカードが抜かれた工藤さんのスマホを見つけた。SIMカードが入っていないと通話機能などは使えない。母親としては、2人からの連絡を取るまいとする必死の抵抗に見えた。
 「小さいころは本当に天真爛漫でよく笑う子だった。亡くなる直前も、何の拍子か『お母さん、いつもありがとう』と言ってくれたのに…。主人も私も共働きで、あの子の苦しみに気づいてあげられなかったんです」
 もう涙は流し尽くした-。母親は黙って目を伏せた。
 2人の公判は今後、大阪地裁堺支部で開かれる。
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