【経済裏読み】日本最大のお客様は「中韓」ではない…統計が示す“真の世界の姿”

今年1月に2兆7900億円と、統計開始以来過去最大の貿易赤字を記録した日本。原発停止による燃料需要の高まりが主因だが、「貿易立国」の経済構造の変化も指摘されている。だが、複数の国で分散してもの作りをする「国際分業」が進む近年、貿易の実態をより正確に表すと注目されている統計データがある。「付加価値」に着目して計算された「付加価値貿易統計」だ。これによると、日本の最大の貿易相手国は中国ではなく米国だった。
 ■総額ではなく「付加価値」
 たとえば、日本が中国に700ドルの液晶パネルを輸出し、中国がこれを使って1000ドルのテレビを製造、米国に輸出した場合。従来の貿易統計だと、日本から中国への輸出が700ドル、中国から米国への輸出が1000ドルとされ、日本の対中貿易黒字と中国の対米貿易黒字がそれぞれ拡大した-となる。
 だが、中国から米国に輸出された1000ドルのテレビには、日本で生み出された700ドルの液晶パネルが含まれている。その「付加価値」ベースで考えると、700ドルは日本で生産されて最終的に米国に輸出されたことになり、中国で生産し米国に輸出された「付加価値」は300ドルとなる。こうして、最終財の価値を付加価値ベースで輸出国に分割、そこから輸出された形に組み替えるのが「付加価値貿易統計」だ。
 国際分業が複雑化し、サプライチェーンが国境を越えた時代には、前述の日本製液晶パネルのような「中間財」の貿易額が何度も計上され、貿易額が過剰に記録されがちだ。これを取り除き、より実態に近づける試みとして、この付加価値貿易統計は注目されている。初めて発表されたのは2013年1月。経済協力開発機構OECD)が世界貿易機関WTO)との連携事業として、国際産業関連表をもとに世界の主要57カ国についてのデータが公表されている。
 
■韓国の輸出品の4割、中国の3割は「他国製」?!
 「付加価値」でみると、日本の貿易統計はかなり特異的だ。09年のデータでは、日本では国内で消費する製品やサービスの付加価値の88%が国内で創出されており、この比率は世界1位。資源が少なく、中間財から完成品の生産までを自ら賄ってきたことから「垂直統合型」と称されてきた日本企業の生産構造が、改めて浮き彫りになった。
 付加価値の輸出額を輸出額で割った「輸出付加価値比率」でみても、この傾向は顕著だ。日中韓で比較すると、日本88・8%に対し、中国は69・8%、韓国は59%。日本は国産品を約9割輸出しているのに対し、韓国では約4割、中国は約3割は他国からの付加価値を含んだものを輸出しているということになる。
 日本の底力を改めて見る思いだが、「自賄い」が必ずしも良いというわけではない。一貫生産は日本企業の競争力の源泉とされてきたが、新興国の労働の質やコスト改革、情報通信技術の革新などで、世界ではより効率の良い国際分業をすることが「勝利の方程式」となった。OECDも「企業活動の成否は、輸入能力(高品質・低コストの中間財等を世界中から集める能力)にも多くを依存するようになった」と分析している。
 
 ■本当の「お客さん」は?
 2000年代以降、輸出入両面で大幅にシェアを伸ばし、09年には米国を抜いて日本の最大輸出相手国となった中国。今年1月には、13年の輸出入総額が前年比7・6%増の4・16兆ドルに達したとする貿易統計を発表した。貿易額で初めて米国を抜いて世界首位に立ったとみられ、世界経済の中でそのプレゼンスはさらに増している。
 だが、付加価値貿易統計でみると、状況はかなり違ってくる。
 09年のデータでみると、従来の輸出総額ベースでは日本の輸出先トップは中国(1255億ドル、24%)で2位が米国(1025億ドル、22%)。だが、付加価値で計算すると、中国への輸出総額は4割以上低下して722億ドル(15%)となる一方、米国は7%増加して1099億ドル(19%)になり、順位は逆転する。3位の順位は変わらない韓国も、シェアは9%から4%にまで低下した。
 二国間貿易をみると、日本にとって真の「お客さん」が誰なのかは、さらに鮮明となる。対米黒字は付加価値で計算すれば総額より6割も増えるが、中韓向けはほとんどなくなってしまうのだ。
簡単にいえば、日本は中国や韓国を経由して米国に商品を売っている-ということだ。
 中国や韓国に日本が輸出する「中間財」が過小評価される一方、日本の中間財を使って中国や韓国が米国に輸出する「最終消費財」は過大評価されていた、従来の貿易統計。世界の経済勢力図もそれをベースに描かれてきたが、付加価値で見直せば大幅に変わってくる。
 ただ、難点はこの統計が膨大なデータをもとにした推計値であり、現時点で09年のデータが最新と、速報性に欠ける点。OECD自身も付加価値貿易統計を「新しく補完的な見方を示すもの」としている。今後のさらなる分析や展開が期待される。(木村さやか)
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やっぱり、そういうことなんだね。
 
驚くより、納得。