過去を引き合いに出しての「道徳的立場」は、真に道徳的とはいいがたい

【トッド・偏在が恐怖、日本も保有を vs 若宮・廃絶こそ国民共通の願い】

若宮 いま、北朝鮮の核が深刻な問題です。

トッド 北朝鮮の無軌道さは米国の攻撃的な政策の結果でしょう。一方、中国は北朝鮮をコントロールしうる立場にいる。つまり北朝鮮の異常な体制は、米国と中国の振る舞いあってこそです。

若宮 トッドさんは識字率の向上や出生率の低下から国民意識の変化を測り、ソ連の崩壊をいち早く予測しました。北朝鮮はどうでしょう。

トッド 正確な知識がないのでお答えできない。ただ、核兵器が実戦配備されるまでに崩壊するのでは……。

若宮 でも不気味です。

トッド 核兵器は偏在こそが怖い。広島、長崎の悲劇は米国だけが核を持っていたからで、米ソ冷戦期には使われなかった。インドとパキスタンは双方が核を持った時に和平のテーブルについた。中東が不安定なのはイスラエルだけに核があるからで、東アジアも中国だけでは安定しない。日本も持てばいい。

若宮 日本が、ですか。

トッド イランも日本も脅威に見舞われている地域の大国であり、核武装していない点でも同じだ。一定の条件の下で日本やイランが核を持てば世界はより安定する。

若宮 極めて刺激的な意見ですね。広島の原爆ドーム世界遺産にしたのは核廃絶への願いからです。核の拒絶は国民的なアイデンティティーで、日本に核武装の選択肢はありません。

トッド 私も日本ではまず広島を訪れた。国民感情はわかるが、世界の現実も直視すべきです。北朝鮮より大きな構造的難題は米国と中国という二つの不安定な巨大システム。著書「帝国以後」でも説明したが、米国は巨額の財政赤字を抱えて衰退しつつあるため、軍事力ですぐ戦争に訴えがちだ。それが日本の唯一の同盟国なのです。

若宮 確かにイラク戦争は米国の問題を露呈しました。

トッド 一方の中国は賃金の頭打ちや種々の社会的格差といった緊張を抱え、「反日ナショナリズムで国民の不満を外に向ける。そんな国が日本の貿易パートナーなのですよ。

若宮 だから核を持てとは短絡的でしょう。

トッド 核兵器は安全のための避難所。核を持てば軍事同盟から解放され、戦争に巻き込まれる恐れはなくなる。ドゴール主義的な考えです。

若宮 でも、核を持てば日米同盟が壊れるだけでなく、中国も警戒を強めてアジアは不安になります。

トッド 日本やドイツの家族構造やイデオロギーは平等原則になく、農民や上流階級に顕著なのは、長男による男系相続が基本ということ。兄弟間と同様に社会的な序列意識も根強い。フランスやロシア、中国、アラブ世界などとは違う。第2次大戦で日独は世界の長男になろうとして失敗し、戦後の日本は米国の弟で満足している。中国やフランスのように同列の兄弟になることにおびえがある。広島によって刻まれた国民的アイデンティティーは、平等な世界の自由さに対するおびえを隠す道具になっている。

若宮 確かに日本は負けた相手の米国に従順でした。一方、米国に救われたフランスには米国への対抗心が強く、イラク戦争でも反対の急先鋒(きゅうせんぽう)でした。「恩人」によく逆らえますね。

トッド ただの反逆ではない。フランスとアングロサクソンは中世以来、競合関係にありますから。フランスが核を持つ最大の理由は、何度も侵略されてきたこと。地政学的に危うい立場を一気に解決するのが核だった。

【トッド・過去にとらわれすぎるな 若宮・日本の自制でアジア均衡】

若宮 パリの街にはドゴールやチャーチルの像がそびえてますが、日本では東条英機らの靖国神社合祀(ごうし)で周辺国に激しくたたかれる。日本が戦争のトラウマを捨てたら、アジアは非常に警戒する。我々は核兵器をつくる経済力も技術もあるけれど、自制によって均衡が保たれてきた。

トッド 第2次大戦の記憶と共に何千年も生きてはいけない。欧州でもユダヤ人虐殺の贖罪(しょくざい)意識が大きすぎるため、パレスチナ民族の窮状を放置しがちで、中東でイニシアチブをとりにくい。日本も戦争への贖罪意識が強く、技術・経済的にもリーダー国なのに世界に責任を果たせないでいる。過去を引き合いに出しての「道徳的立場」は、真に道徳的とはいいがたい。

若宮 「非核」を売りにする戦略思考の欠如こそが問題なのです。日本で「過去にとらわれるな」と言う人たちはいまだ過去を正当化しがち。日本の核武装論者に日米同盟の堅持論者が多いのもトッドさんとは違う点です。

トッド 小泉政権で印象深かったのは「気晴らし・面白半分のナショナリズム」。靖国参拝や、どう見ても二次的な問題である島へのこだわりです。実は米国に完全に服従していることを隠す「にせナショナリズム」ですよ。

若宮 面白い見方ですね。

トッド 日本はまず、世界とどんな関係を築いていくのか考えないと。なるほど日本が現在のイデオロギーの下で核兵器を持つのは時期尚早でしょう。中国や米国との間で大きな問題が起きてくる。だが、日本が紛争に巻き込まれないため、また米国の攻撃性から逃れるために核を持つのなら、中国の対応はいささか異なってくる。

若宮 唯一の被爆国、しかもNPT(核不拡散条約)の優等生が核を持つと言い出せば、歯止めがなくなる。

トッド 核を保有する大国が地域に二つもあれば、地域のすべての国に「核戦争は馬鹿らしい」と思わせられる。

(中略)

若宮 核均衡が成り立つのは、核を使ったらおしまいだから。人類史上で原爆投下の例は日本にしかなく、その悲惨さを伝える責務がある。仮に核を勧められても持たないという「不思議な国」が一つくらいあってもいい。

トッド その考え方は興味深いが、核攻撃を受けた国が核を保有すれば、核についての本格論議が始まる。大きな転機となります。
(以下略)


帝国以後〔アメリカ・システムの崩壊〕エマニュエル トッド著
 
 
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面白いですね~!!
 
きっと、日本が普通の国に復活し、世界の模範となるには、
自分から手をあげるのではなく、
こうやって、外国に推されてなるのでしょうね。
 
きっと、日本が推され、日本人が引き受けた時に、世界平和の第一歩が始まるのかな。
 
頑張れ!日本!